PICK&UP No.46 株式会社テイエム -石巻市-
漁船やクルージング船を
クリエイティブで支える
株式会社テイエム
今回は石巻市西浜町にある造船工場・株式会社ヤマニシ内に会社を構える株式会社テイエムの代表取締役 阿部 仁さんにお話しを伺いました。普段なかなか見る事のできない工場内の一部をご紹介します。
「あの船も、この船も携わっている
と思うと達成感があります」
まもなく創業30年を迎える株式会社テイエムは、主に船舶の修繕工事や内装工事、家具の制作、デッキコンポジション工事、木材仕入れ製材、テントシート加工など船に関わる船のプロフェッショナルです。
テイエムが設立された平成9年からこれまでの年月で積み重ねた新造・修繕等の実績には、船に詳しくない人でも聞いたことのあるような名立たる船の名前も多く並び、蓄積された確かな技術が示されています。
“船”と言っても用途に合わせて作られ使われるため、形や大きさ、機能性は多種多様。
身近なものや見たことがある種類をあげてみても、漁船、クルージング船、客船、貨物船、実習船、カーフェリー船、冷凍運搬船などたくさんの船を思い浮かべることでしょう。
テイエムの業務は大きく分けて「船舶内装・修繕」「FRP設計・開発」「テントシートレザー加工・縫製」「木材の製材加工」の4つの柱になっています。
その中でも特にメインとなる船舶内装・修繕は、家を建てる時やリフォームする際に床・壁・建具など内装全般の工事を担当する内装屋さんのような作業を行うので、分かりやすくいうと“船のリフォーム屋さん”のようなお仕事です。
海上での長旅による痛んだ船の壁や天井の貼り替え、老朽化した配線・配管交換など修繕のほかにも、豪華客船の客室の模様替えで家具の配置替えや設置、椅子の座面の修理、絨毯の貼り替えなども行っているそう。それぞれ船の状態や修繕要望に合わせて柔軟に対応し、よりよい姿に導く姿は、まるで船のお医者さんのようです。
時には荒波の中を進んでいく船内では、海上での生活に合わせた安全性とそれぞれの船の構造に合わせた設計が必要になるそう。陸地に家を建てるとき、基本的に壁や天井は水平に作られますが、船は構造上湾曲している部分も多いため、その位置に合わせて家具を製作・設置していくそうです。
「船に使用するため、燃えにくくて水に強い素材を使いますが、基本的に作業は陸上の内装屋とそう変わらない。しかし陸上にはない海上環境ならではの工夫がある。」と阿部社長は語ります。
FRP設計・開発も船舶修繕作業のひとつです。
ガラス繊維などと樹脂を複合し強度を向上させた“繊維強化プラスチック(FRP)”は、プラスチックの軽さ、ガラス繊維の強化材としての特性、耐久性、成型のしやすさから、船の船体のほかにもユニットバスや自動車の内外装など私たちの身の回りにもたくさん使われているそう。テイエムでも漁船の修繕の際に、漁艙の扉やフタなどに使用しているそうです。
テントシートレザー加工・縫製の仕事も実はとても私たちの身近なもので、観光船や公共バスの椅子の背面・座面のクッション部分を作る作業、というイメージ。設置場所や用途によってサイズや数は色々なので、オーダーに合わせて色や素材を選び、ひとつひとつ丁寧に専用のミシンで縫い合わせ、手作業でウレタンを包み込んでいきます。取材時に作業の様子を見学させていただきましたが、縫い合わせたレザーが寸分狂いなくぴったりとスムーズ貼り付けられていく速さと仕上がりの美しさは、職人さんの技術力の高さを形にしているようでした。このような家具のほかにも、ほこりなどから機械を保護するために被せるビニールカバーも、機械のサイズや形に合わせて設計し、オーダーメイドで製作しているそうです。
「ものづくりが好きな人には
すごく毎日楽しいと思います」
最後にご紹介する部門は新な取り組みである「木材製材」についてです。
テイエムでは船内の壁面や床面など様々なところに使用される木材を用途に合わせて製材しています。メインは宮城県産の杉丸太、他にはヒノキ、米ヒバなどを取り扱っており、ひとつひとつ図面を見ながら、長さ、大きさを調整しながら職人さんたちが丁寧に切り出していくので、工場内にはとても綺麗な木材がたくさん積まれています。
職人さんたちの中にはテイエムに入社してから初めて木材製材をやった、という方も多いそう。阿部社長は工場内を見渡しながら、「入社したら、木工の練習に1人1個ちりとりや踏み台を作ってもらってて。完成したものは、そのあとみんなで大事に使ってるんです。」と優しく教えてくださいました。
稲井地区には木材製材専門の工場があります。工場長の新沼豊さんは木材の市場や材木屋などで経験を積んできた木材に関わって40年以上のベテラン職人さん。お話しを聞いたところ、「これまで様々な木材を取り扱ってきたけど、製材の依頼の内容はいろいろで。どれも完全オーダーメイド。こういうのがほしい、ああいうのがほしい、っていう希望を聞いて、合う木を選んでひとつひとつ作ってる。木は伐採するまでに約60年。自然に優しい木材を適材適所にご提案していきたい。」と語ってくれました。
「大丈夫、この仕事は誰でも挑戦できる」
阿部社長は土木関係の仕事に14年従事し、その後テイエムに入社。一から仕事を覚え、前社長が勇退し会長になられるタイミングで社長に就任しました。船舶の内装・修繕工事、FRP、木材製材など、多種多様な業務を経験してきた中で、阿部社長はご自身の経験談から「なにかに失敗しても先輩が教えてくれた。失敗して怒られた記憶はない。だからこそ、失敗も経験のひとつとしてのびのびやることができた。大丈夫、この仕事は誰でも挑戦できる。」と語ります。
未経験でこの仕事を始めても、先輩が丁寧に教えてくれる安心感。ものづくりの技術者が多く集まる環境。要望に応えていくアイデアと技術が試されるやりがい。大海を行く船を支えているという実感、わくわく感、感動。そのひとつひとつが、明日を支えるクリエイティブになっているのだと感じました。
テイエムの仕事は、船で遠くから運ばれてきたもの、客船に乗った思い出、食卓に出てくる食材、私たちの日々の当たり前なそれらのどこかに間接的に繋がっているものばかりです。
これまで培い繋がれてきた技術・想いは、職人さんたちから若い世代に繋がり、これからの未来を作っていくことでしょう。
文:酒井志帆 写真:上野恵美・酒井志帆
株式会社テイエム
〒986-0843
宮城県石巻市西浜町1-2株式会社ヤマニシ内
TEL:0225-83-1268