PICK&UP No.17 有限会社アグリードなるせ -東松島市-
バウムクーヘンの一層一層のように
挑戦に次ぐ挑戦の軌跡
東松島市野蒜地区で最先端の農業に挑戦し続けているアグリードなるせ。
今回は前回ご紹介したアグリードなるせの農業の取組のその先のお話です。
農業の先に見えた“自社の強み”
震災後、アグリードなるせに集積された野蒜の農地は約100ヘクタール。
「広い農地を運用していくためには水稲だけでは難しい。」そう考えたアグリードなるせは転作に踏み切り、大豆や麦の栽培を始めました。
しかし大事に丁寧に育てた大豆や麦は、そのままの姿では安いキロ単価で取引されます。
「何か付加価値をつけられないか。」と思考を巡らせ、たどり着いたのは自社の“小麦の魅力”でした。
日本は多湿のため、小麦は一般的に海外産の方が使いやすいと言われています。しかし、アグリードなるせの小麦は味の濃さと甘み、香りの良さという特徴的な強みがありました。
小麦の魅力と強みを活かした商品を作るため、アグリードなるせの6次産業への挑戦は動き出しました。
1次産業(農業)の次のステップ、2次産業(加工製造)への一歩を踏み出したアグリードなるせは、自社で栽培した小麦の製粉や米の精米などの加工製造を行うため、野蒜に農産物処理加工施設『NOBICO(ノビコ)』を設立しました。加工製造業を通して「震災で野蒜の地を離れてしまった人々が戻ってこられる場所になるように」「雇用創出に繋がるように」という思いも込められた施設です。
施設名の“NOBICO”は、職員みんなで意見を出しあった時に挙がった『“野蒜の粉”だから“のびこ”』という案が原点だそうです。今ではすっかり親しみのある“NOBICO”という名称ですが、理由を聞くとまたさらに愛着がわいてきます。
支援への感謝、重なり、繋がる“縁”
アグリードなるせの看板商品『のびるバウム』が誕生したのは、NOBICOが完成した年の秋のこと。
のびるバウム誕生のきっかけは、とある食品イベントでの出会いから始まったそうです。
イベント会場に足を運んだ際のこと、会場内に漂う甘い香りに惹かれ、たどり着いたのは兵庫県神戸市でバウムクーヘンを製造している会社のブースだったそうです。阪神・淡路大震災で被災し、その後立ち上がり、バウムクーヘン作りをしている神戸市の会社との出会いをきっかけに、アグリードなるせのバウムクーヘン作りが始まりました。
社内にプロがいたわけではありません。皆で協力し何度も試行錯誤を繰り返し、小麦の製粉から商品作りの細かいところまでこだわった努力の結果、自前の小麦粉で焼き上げた“のびるバウム”が誕生し、アグリードなるせは自社だけで完結する「6次産業」にたどり着いたのです。
焼き手の想い
アグリードなるせで製粉している粉は、シラネコムギ(薄力粉)、なつこがね(中力粉)、銀河のちから(強力粉)、米粉の4種類。どれも特徴的でクセのあるプロ仕様のため、料理人やマニアにはたまらない逸品です。
のびるバウムには全粒粉に挽き上げたシラネコムギが使われています。
毎日心を込めてのびるバウムを焼き上げている“焼き手”の本多さんと山本さんにお話を聞いたところ、バウムクーヘンはとても繊細で、その日の湿気や気温、卵や小麦の状態で、バウムの焼き色や柔らかさが変わるようです。焼き手がその日の状態を見極め、調整しながら焼き上げるため、焼きあがったバウムには焼き手のクセが見える、とお二人が教えてくれました。
「美味しいと言ってもらえたときや、新商品が高評価だったときはすごく嬉しい」「あまり火が通りすぎていない方が美味しい。でもしっかりと火を入れた方が小麦の香りが立つ。絶妙なラインかつベストな焼き加減を目指して“焼き”を攻めた結果、重なりの部分が重さに耐えられずオーブンの中で落ちてしまった時は悲しい」「人によってハードタイプのバウムのツノの形が違う」「バウムそれぞれに表情があって、上手く焼けた時は輝いている」など、焼き手ならではのエピソードを聞いて、こだわりとバウムへの想いの強さに感動しました。
消費者からは見えない部分ですが、焼き手の方の想いや丁寧さをたくさんに人々に知っていただけたら嬉しいです。
一層一層丁寧に、大切に、職人の手で焼き上げられている“のびるバウム”。
次回はのびるバウムの美味しい食べ方や新商品をご紹介します。ぜひお楽しみに!
文・写真:酒井志帆
有限会社アグリードなるせ
有限会社アグリードなるせ
〒981‐0411宮城県東松島市野蒜字神吉5番地1
電話: 0225-88-3645