PICK&UP N o.27 コミュニティスペース うみねこ -女川町-
とらわれず、こだわらず「人それぞれの魅力」をマッチさせ価値を想像するプロデューサー。
今回は、宮城県牡鹿 郡女川町(おながわちょう)で目の前に起こる問題のサポート活動、地元の物を使った商品造成により、いきがい・やりがい・小さな生業を作り続けているコミュ二ティスペースうみねこの代表八木純子さんにお話をお聞きしました。活動拠点となる女川町高白浜の「ゆめハウス」からお届けします
~地元の元気・復興のためにできる事を~
東日本大震災から、活動を続けてきた想い
女川町出身の八木純子さんは、保育士を20年務めた後、石巻で2011年まで学習塾を経営していました。同年3月に東日本大震災が発生し、八木さんの地元は壊滅的な被害に。居ても立ってもいられなった八木さんは、子育て中のお母さんたちの束の間の休息や入浴中の託児ボランティアやおもちゃの寄贈の手配、炊き出し、高齢者のデイケア、持ち前の発想力と行動力で目の前に起こる困っている方々へのサポートやサービスを次々と考え行動に移しました。目に写る皆の困りごとを一つ一つ解消する活動をしていました。
一方的に支援をいただくだけだといろんな意味でおかしくなってしまうのでは…。
震災から3ヶ月の頃感じた違和感
震災当初、全国からたくさんの温かい支援や物資が寄せられました。
震災から3ヶ月経過したある日、ボランティアを続けながら八木さんはふと立ち止まり考えました。「このまま私たちが一方的にいただく事を続けると、いろんな意味で感覚がおかしくなってしまうかもしれない。何十年も普通に働いていた方々が被災して、突然仕事を失っている非日常的な状況で心にぽっかり穴が空いている。生きがいや、本来働いてお金を得て、ほしいものや必要なものを得ることが当たり前の日常を、できるだけ早く取り戻すことが大事なのでは。」と考えるようになりました。
八木さんの地元、高白浜の仮設住宅では、高齢者さんが多い地域でした。家が流され、身の回りの物をほとんど失った方々の心の安定がまずは第一だと考え、手先な器用な仮設住宅のお母さんたちの生きがいと仕事をと、支援物資として届いたT シャツから余った物を活用し、地域のお母さんたちを集めて布草履の制作と販売を始めました。高齢者でも編める柔らかい素材というところにも着目しました。
「その人に合った生業を考える」まさに八木さんならではの発想の誕生です。
材料がT シャツだから、柔らかくて高齢者にも作りやすい布草履。
作るために集まる事でコミュニティーが生まれました。
「この人ありき」の、生業作りで
その人も買った人にも、喜んでもらいたい。
お母さんたちが、生業と人との交流を重ね活気を取り戻す中、今度は地元のお父さんたちの事が気がかりに…。八木さんの父親は漁師で震災で家も船も流され仕事ができない状態でした。高白浜のお父さんたちも、船を流され仮設住宅に引きこもっている方も多く、八木さんは心を痛めていました。船を用意して皆で使って仕事を再開させたら良いのでは?と考えましたが、船は漁師にとって奥さんのような大切な存在で、共同で使うことはタブーだそうで、それも難しく、八木さんはお父さんたちの漁業以外の活躍の場と生業を生み出そうと頭をひねりました。
そこで着目したのは高白浜に奇跡的に残った2本のイチジクの木。
女川町高白浜に震災後奇跡的に
生き残った1本のイチジクの再生
地元では、庭にイチジクの木がある家が多く、震災によって庭のイチジクが流されてしまった方の寂しい思いも癒したい!と、高白浜にイチジクの畑を、お父さんたちと共に開墾する事になりました。
2本だったイチジクの木はすくすく育ち、地域の人々の2つ目の光となって輝き出しました。そして、八木さんはこの後も女川の高齢者を中心とした住民の元気を取り戻したい一心で、様々なアイデアを生み出し行動に移していきました。その想いに日本全国の方々が共感し、女川と県外との交流が生まれました。駆けつけて一緒に作ってくれる仲間、就職したいと志願する方が集まりました。
震災から11年目の今もなお、八木さんは歩みを止める事なく月にいくつものプロジェクトを推し進めています。
自社栽培のいちじくで作った「いちじくの葉茶」と、「オリジナルブレンドコーヒー」
“ その場しのぎ”ではない復興を目指して
できなそう?じゃあ、どうやったらできるか?を考える。
八木さんは、震災を機にたくさんのボランティアの方との出会いの中で、考え方に変化が生まれたそうです。「もともと、四角は四角。こうあるべき!で生きて来たんだよね。籠の中にいて、大切に育てられたような感じなの。でも震災で多くの人と出会って少しずつ、あぁこんな考え方もあるんだな!と柔軟な考え方になったの。」と八木さん。時々垣間見える几帳面で真面目な部分に震災以前の八木さんのベースとなるものがあるのだと感じました。元々の生き方に、新たな考え方をインプットし、柔軟に様々な商品開発や企画へと発展させています。商品の一つ一つに、語りきれないドラマがあり、たくさんの方に手に取ってもらえる仕組みと、生業作りによって結果的に関わった皆が幸せになるところが素晴らしいと思いました。
漁師さんが使う浮きをアクセサリーやインテリアに「ゆめ玉」の制作
漁師さんたちが作り慣れている浮きを活用した生業が誕生しました。
地元の方が集まり作る、おしゃれなしめ縄の制作販売
地域の皆さんで集まって語り合いながら癒しと活力が生まれました。
誰でも主人公になれる生業作り。
作り手もお客さんも幸せな企画作りが基本。
八木さんの会社、コミュニティスペースuminekoで栽培しているピリッと辛い青唐辛子と、明治創業の味噌醤油屋さん(有)金華山醸造とのコラボ商品「ピリ辛!唐辛子みそ」は、甘めのお味噌にuminekoの激辛の青唐辛子をたっぷりと混ぜ込んだ唐辛子みそ。控えめな甘さなので、ご飯のおともや、料理の隠し味におすすめな一品です。
パッケージデザインは、田園調布雙葉学園の生徒のみなさん、聖セシリア中学校高等学校の生徒の皆さん、地元デザイン会社によるデザインの5種類で展開。
デザイン毎にオリジナルレシピが見れるWEBサイトのQRコードを配置し、工夫を凝らしたパッケージになっています。
様々な人の関わりが商品の宣伝や愛着に繋がり、販売するとすぐ売り切れるような魅力ある商品に出来上がりました。デザインで関わってくれた生徒たちが制作から販売まで体験する事で」震災の復興に関心を寄せてもらう入り口にしたいという想いもあるそうです。
一味は軽量のパックなので運びやすく、お土産に重宝されているそうです。軽量で、作り手が高齢者でも作業がしやすいところも企画のポイントだそう。
うみねこ× 雄勝ローズガーデン=「花の香り袋」
「被災地の寒々しい景色にせめて花を」という想いを、コラボにより商品化に発展させた「花の香り袋」
今年新たなプロジェクトが始動。
石巻市稲井に地域の人が集まれる憩いの場
「お買いもの処とまと」
震災後すぐの子守り活動から始まり、食堂、農作物の製品化、女川ならではの形の「さんまなたい焼き」の販売と歌のリリースなど、たくさんの活動をされてきた八木さん。お店には、地場産のお野菜や地元の雑貨や食品が、並んでいます。
今年4月に、合同会社EEEを設立し新しいプロジェクトが始動。石巻市稲井に「お買いもの処とまと」をスタートさせました。子育て中の方やご家族の介護をされている方がもっと気軽に働けて、買い物やお食事ができ、地域の方が孤立せず皆で集まれる場所を目指しているそうです。今後、そのお隣の建物ではイートインができるお惣菜屋さんを開き、地域の拠り所を目指すそうです。
この地域に新たな居場所を作る八木さんの活躍に目が離せないですね。持ち前の企画力と行動力で、ビジネスプロデュースや商品企画、コラボ企画のコーディネートなどの相談も受けているそうで、活性化やアイデアに困りの方はぜひコミュニティスペースうみねこさんへ是非お問い合わせしてみてください。
写真:一部同社提供 文:上野恵美
コミュニティスペース うみねこ
「ゆめハウス」
住所 〒986-2226
宮城県牡鹿郡女川町高白浜25-2
TEL:0225-25-7486