PICK&UP No.30 社会福祉法人一視同仁会 -石巻市-
(全 5 回・第3回目)
輝やく宝物のような思い出が
懐かしの曲と憩う、デイサービス
今回は社会福祉法人一視同仁会ピックアップ第3回目(1回目、2 回目はこちら)。社会福祉法人一視同仁会が運営する老人福祉施設で、音楽を介護福祉の現場に取り入れてきた取り組みをご紹介します。
心がはずみ、癒される
笑顔が溢れる時間を
社会福祉法人一視同仁会が運営する介護福祉施設では、利用者さんがより楽しく幸せに、明日を楽しみにしながら過ごせるようにと、五感が喜ぶ様々な「芸術活動」から介護福祉のアプローチをされています。その取り組みの一つがデイサービスでの演奏会の定期開催です。
この日は、トランペッターの佐藤俊也さんと、ピアニストの菅原久美子さんのデュオにより「ゆうやけこやけ」や「上を向いて歩こう」など利用者さん世代に親しみのある曲が演奏されました。
生演奏のトランペットとピアノは、迫力があり利用者の方々は歌を口ずさんだり、手拍子をして盛り上がりを見せていました。
トランペッターの佐藤さんは、『一人での演奏でもソロで完結してしまう楽器ですが、ピアノの菅原さんとデュオで演奏したり、利用者さんとコミュニケーションを取りながら演奏したりすることが、楽しい。また花水木さんで演奏をしたいです。』と今後の開催も楽しみにされていました。
佐藤さんは、音域や曲に合わせて3つのトランペットを使い分け、より印象的に素晴らしい演奏を届けていました。
参考:トランペッター 佐藤俊也オフィシャルサイト
介護福祉の現場に必要な事を
積極的に取り入れる挑戦
社会福祉法人一視同仁会の理事長遠藤早苗さん(以下、遠藤理事長)が音楽を介護福祉の現場に取り入れようと考えたのは、同法人の事務職をしていた20年ほど前だそう。
遠藤理事長は「利用者さんが花水木のデイサービスや施設で過ごされる時に、少しでも楽しく生きがいを感じていただける時間にできないだろうか。」と考え、そこで“音楽”が介護福祉の現場で必要なのではと強く感じ、当時の上司にボランティアの受け入れを提案することにしました。ところが当時の理事長、施設長、事務長からは「何かあったらどうするの?」と大反対され、開催に至るまでは容易な道のりではなかったようです。遠藤理事長は、上司たちの不安要素を取り除くために、ボランティアコーディネーターの資格を取る事に決めました。
理解と安心を得るための
資格取得へ
演奏会や様々な想いで来られるボランティアの方々を施設に受け入れるにあたり、当時まだ事務職員だった遠藤理事長は有給休暇を活用して約1年半ボランティアコーディネーターの資格を取得するために学びました。ボランティアを受け入れるにあたっての注意や、継続していただくためのノウハウを習得し、上司の理解を得て、演奏会の開催が実現しました。昨今では、介護福祉の現場の演奏会は、“音楽療法”として、高齢者の認知症ケアや医療にも用いられ、東日本大震災後は一般的にもボランティアの受け入れも増えてきましたが当時は、どちらも慎重だったそうです。
遠藤理事長は「利用者の方々が今まで好きだったこと、やってみたいことを体験し、“次までの楽しみ”になり、生きる励みになる時間を作りたい。その中に生きがいを見出して欲しい。」と考えました。
ピアノ演奏や日本舞踊、民謡や書道教室など、カルチャー教室のようなイメージで計画を作っていかれました。施設内にある、地域の方々の絵画や書、生け花も、利用者の方と職員を癒し、楽しませたい想いで飾られています。
「介護を必要とされている方には、身体的支援だけでなく精神的支援も大切だと思います。」と、遠藤理事長。
そして、遠藤理事長が日頃取り組んでいたボランティア受け入れと介護福祉に音楽を取り入れる取り組みが間違いなかったと確信したのは、東日本大震災の直後の5月だそう。
施設に2人の自衛隊の方が訪れ、「困っていることがあったら何でも言ってください」と言われ、遠藤理事長は「利用者さんと職員の悲しみ、心を助けて欲しいです。」とお願いしました。すると即答で、「音楽隊はどうでしょう」と提案され、普段演奏会を見る事が難しい“陸上自衛隊 東北方面音楽隊”の貴重な演奏会が、花水木介護センターで実現しました。
同施設のデイサービスホール半分に、陸上自衛隊東北方面音楽隊の皆さんが次々に楽器を搬入し、いざ演奏が始ると、利用者さんと職員の皆さんは感動の涙を流し、最後は喜びの笑顔が溢れたそうです。
支援する方もされる方も
お互いが幸せに
社会福祉法人一視同仁会の各施設で、音楽を取り入れてから20年。出演者さん毎に内容がそれぞれ工夫され、利用者さん世代に親しまれている懐かしの名曲を中心にセレクトされていたり、トークコーナーを交えてコミュニケーションを利用者さんも楽しめたりと、バラエティーに富んだ演奏会が行われてきました。
この日は介護センター花水木で、ピアニストの石井りえさんが奏でる懐かしの曲に、リクエストやアンコールの声も飛び出し、利用者さんは大満足のようでした。
明日が楽しみになる
生きがいを見出してほしい
「もう終わりなの?」「楽しかった~!」「テレビは面白くなくてね…生演奏は最高だねぇ。」と、終演には名残惜しい言葉をどの施設の演奏会でも、耳にしました。「次を楽しみにするから~!」と、既に次の開催を心待ちにしている利用者の言葉を聞いて、明日への生き甲斐、活力を確実に生んでいることに、遠藤理事長の願いがしっかりと届いていると感じました。
地域住民と利用者、
そして地域と職員をつなぐ
社会福祉法人一視同仁会の、この取り組みは、利用者の方々が喜ぶだけでなく、ボランティアとして活動してくださる地域の方々も、“一生懸命に今まで習って来たことを披露できる事”や、“人の役に立つことができる事”に喜びを感じるという声が寄せられ、幸せの連鎖が生まれています。
20年前、遠藤理事長が描いた夢“関わった方すべてが幸せになれる”素晴らしいプロジェクトは、これからもたくさんの笑顔を作り続けていくことでしょう。
文:上野恵美 写真:酒井志帆 上野恵美 一部同社提供
社会福祉法人 一視同仁会
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受付時間:8時20分 ~ 17時20分