PICK&UP No.07 株式会社布施商店 -石巻市-(全2回・前編)
石巻の魚で世界中の食卓を笑顔にしたい!
震災がなかったらこんなにも地元石巻を意識しなかったかもしれない。
今年で創業110年になる株式会社布施商店の4代目社長、布施太一さん。
布施さんは大学卒業後、家業は継がず商社に勤めた。
しかし震災後、地元石巻に戻り、家業を継ぎ見つめる先にあるものは。
あの日が来るまでは
考えることがなかった地元石巻
布施商店は1912 年、布施さんの曽祖父が創業。当初は石巻の魚で魚油や煮干しを製造。先代の父・三郎さんは鮮魚卸や加工業に注力してきた。
布施さんは、もっと広い世界を知りたくて東京の大学に入学し卒業後、三井物産に就職。食品の流通の仕事に携わっていた。
布施さんは、子どもの頃から家業を継ぐという意識は全く無かったという。しかし、2011 年の東日本大震災により、地元のことを強く意識するようになった。津波で、実家も会社も流され、東京からテレビで津波の被害を確認するも、家族と連絡が取れて無事を知ることができたのはしばらく経ってからだった。
その出来事が、布施さんの地元への気持ちを変えるきっかけとなった。
布施さんは、震災後やっと帰ることができた1ヶ月後、変わり果てた地元の衝撃的な光景に、心を痛めた。
「実家も流され、会社も流されめちゃめちゃな状態になっていて。父(先代の社長・三郎さん)は、当然会社を畳む決断をするものだと思っていました。」
しかし、震災から3ヶ月後、補助金を活用し会社を建て直すことを決意した父・三郎さん(先代の社長)を見て、布施さんのなかで実家を継ごうという決意が芽生えた。
その後、三井物産で経験を積みたかった海外での仕事の機会に恵まれ、任務を終え、地元石巻に戻り、昨年の1月に4代目の社長に就任した。
「布施さん、魚は好きですか?」
経営者としての勉強を日々怠らず、研磨している布施さんは、とある経営者セミナーに参加した際に、大きな気づきを得たという。
とあるセミナーのコーチに「布施さん、魚は好きですか?」と聞かれ、「はい、好きです。」と、答えた時に、(正直、好きでも嫌いでもない。好きでも嫌いでもないと言ったらまずい空気だったし。)と思ったそうだ。
布施さんの次に同じ質問をされた経営者の参加者が、「嫌い」と答え、コーチにつめられているのを見ているうちに、自分の中でちょっと嘘をついてしまった、なぜ「好き」と胸を張って言えないのだろうと自問自答した。
そして、布施さんは答えに辿り着く。
「好きか嫌いか分からないのは、
知らないからだ。」
だったら知ろう!そして伝えよう、
石巻の魚の美味しさを。
それは、YOUTUBE チャンネル「仲買人タイチ」が誕生した瞬間だった。
忙しい仕事の合間を縫って、撮影は行われている。
魚を上手に捌き、調理し、実食し食レポもこなす。時に、漁の様子やコラボで、視聴者を飽きさせること無く、精力的に更新している。
画面の中の布施さんは、インタビューを受けた応接室のその人とは別の印象だ。経営者の姿と、エンターテイナーの姿、二つを全力でこなす姿から、石巻の漁業の未来を繁栄させたいという強い思いと決意を感じた。
年々、穫れる魚が減っている状況下で、魚を消費者に提供する方法も工夫が必要になっているという。
海と笑顔をつなぐ魚屋さん
布施商店さんは、“世界中の食卓に笑顔が溢れ、お客様や社会全体を笑顔にすること” を事業定義としている。
全ては海から始まり、海から受ける価値を、新たな創造力で余すことなく引き出し、会社と石巻の発展を目指して邁進している。
次回後編は、布施さんの新たな挑戦をお送りします。【5 月1 日後編配信】
写真・同社提供 取材・文 上野恵美
株式会社布施商店
住所
〒986-0022 宮城県石巻市魚町3-4-13
TEL 0225-94-2266
受付時間 平日8:00-16:00