PICK&UP No.43 株式会社宮富士工業 -石巻市-
(全5回・第4回目)
些細なカラクリが成功の鍵
現代の名工は発明家!
石巻市の「溶接一筋」の鉄工所、株式会社宮富士工業の深掘り取材 第4弾。
これまでの記事はこちら → 第1回会社の歴史・第2回石灰貯蓄タンク・第3回連続抽出機
今回は株式会社宮富士工業と株式会社ジェイパック化工が共同で取り組む“これからの未来”に向けた新たな事業、「竹染箸」の製造をPICK&UP 。
社長の後藤春雄さん(以下「後藤社長」)にお話しを伺いました。
「プラスチック箸の処分ってどうしたらいいのかな」
きっかけはふとした会話から
「脱プラスチック」の取り組みにより、マイバッグ・マイボトルの利用促進、カトラリーやストローがプラスチック製から木製・紙製などの代替品へと移行していくなど、我々も徐々に「脱プラスチック」への取り組みが日常的で当たり前になってきた近年。
ある日、ジェイパック化工の鈴木社長は外食業界の方から「プラスチック箸の処分ってどうしたらいいのかな」と相談されたそう。
ジェイパック化工は、岩手県一関市でお弁当などに使用される発泡ウッド容器(折箱)を専門に取り扱うメーカーで、折箱の一貫生産を行っているため外食業界との付き合いも多い。
脱プラスチックの取り組みに合わせ、「今後はプラスチックの代替素材の箸を外食産業に広め、リサイクル・再利用していくことでSDGsの一環として循環を作っていきたい」と考えていた鈴木さんは、加工することで再利用が可能となり、使用後は燃やして土に返すことできる“竹箸”の製造に挑戦することを決めたそう。
竹箸製造への道は険しく、時には上手くいかずに断念せざるをえない状況になったことも。それでも諦めきれなかった鈴木さんは、宮富士工業の後藤社長に竹箸事業への挑戦を再度打診。
宮富士工業の精鋭部隊の知恵を詰め込み、構想から約1年。試行錯誤を重ね、ついに再利用可能な竹箸を作るための機械「全自動竹染箸機械」が完成し、未来への第一歩を踏み出しました。
完成した機械は全長9m。機械の中で箸を移動しながら着色させ、黒い竹箸を作る仕組みですが、このスタイルになるまでには何度も思考錯誤を重ねたそう。
「どうしてこういう形にしたんですか?」と後藤社長に聞いてみたところ、「最初は釜を作って、その中に水と竹炭をいれて、煮て竹を染めようとしたけど、圧力が掛からなくて色が染みこまなくて失敗した。いろんな方法を考えていた時に、“全自動焼き鳥機”が思い浮かんでね。ぶらさがった焼き鳥をたれに着けて、焼いて、もう一度たれにつけて、また焼いて、、、焼き終わった焼き鳥が出てくる。その一連の動作を機械が全自動で行う。この仕組みを取り入れたら面白いんじゃないか、と思ったのがきっかけ。そこからは知恵と発見。昔ながらの小さなカラクリとロボット技術を組み合わせてこの形に作り上げた。」と楽しそうに教えてくれました。
≪小さなカラクリと機械の全貌≫
ここからは「全自動竹染箸機械」の仕組みを簡単にご紹介!
カラクリの仕組みを活用し、挟む部分を少し押して半回転させることで、上手く挟むことができるそう。
電子的なものではなく、機械の動きの中で生まれる動力を活かした小さなひとつのカラクリの有無で、機械の動きは大きく変わるもの。ピンチの大きさやバランス、形状、そして機械の挟む部分の力加減やスピードなど細かく調整しているそう。細かいところに宮富士工業の技術力が光ります。
その後最終地点で竹箸はピンチから自動で外されケースに落とされる。最終地点には赤外線センサーがついており、機械の不具合の探知と数量測定の役割を果たしているそう。
「“新しい物を作る面白さに、わくわくする”
その思いが自身を突き動かす」
機械の全貌を教えてくれたあと、後藤社長は「どんどん新しいことをやって、生活を便利に、面白くしたい。機械を作って売るだけじゃなくて、自分も関わりながら面白いことをやっていきたい。頭の中で図面は完成しない。儲けを考えたら新しいことはやれない。新しい物を作る面白さにわくわくする。その思いが自身を突き動かす。だけどいつまでも自分がやれるわけではない。この技術を残して、この地に働く場所と働ける人を育てていきたい」とものづくりとこれからの未来への想いを聞かせてくれました。
今回紹介した竹染箸は、しばらくは一般販売せずに、外食業界での再利用をベースに使用されるそう。
我々はいつかどこかの飲食店でこの箸に巡り合う日がくるかもしれません。
当たり前に使っているもの、当たり前に食べているもの、私たちの身の回りにあるものは、どれもすべて誰かの想いをきっかけに、試行錯誤を繰り返して形になったものばかりです。
見えないところで我々の生活を支えてくれている優れた技術力とものづくりの面白さ・熱意はこれからも受け継がれていくことでしょう。
次回は満を持して、宮富士工業が力を入れている人材育成の取り組みについてご紹介します。お楽しみに!
文・写真:酒井志帆
株式会社宮富士工業
〒986-0855
宮城県石巻市大街道東二丁目14番15号
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