PICK&UP No.36 株式会社宮富士工業 -石巻市-
(全5回・第3回目)
「植物油ってどうやって作られているの?」
国内唯一!宮富士工業の “連続抽出機” とは
我々が日常的に使っている様々な「油」。ヘアオイルやエンジンオイルなど様々な種類の油がありますが、一番身近なのは食用に使用される植物油ではないでしょうか。植物油といっても、胡麻油やオリーブオイル、なたね油や米油など多くの種類が存在し、それぞれ素材の個性が生かされ、油となり、我々の食生活を豊かにしてくれます。ではその様々な種類の油がどのように作られているか、皆さんは知っていますか?
今回は、油ができるまでの工程を知るべく、油を作るための機械「連続抽出機」を製造している石巻市の株式会社宮富士工業の社長 後藤春雄さん(以下「後藤社長」)とプロジェクトリーダー 阿部栄治さん(以下「阿部さん」)にお話しを伺いました。
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油ってどうやって作られているの?
油を作るには、原料となる植物から油分を取り出すための作業として「圧搾」または「抽出」が行われます。
一つ目の “圧搾” とは、「油分を取り出す方法は?」と考えたときに一番に思い浮かべると思われる、ギューっと潰したり、押し出すような、圧力をかけて油分を取り出す方法です。
二つ目の “抽出” とは、ノルマルヘキサンなどの溶液を使用し、化学的に油を取り出す方法です。
ノルマルヘキサンは無色透明の液体で、異臭もなく、食品衛生法に適合していることから、油の抽出の他にも幅広く使用されている溶剤です。原料から取り出された油分は、その後 脱色や脱臭等の工程を行い、ボトル等に詰められて我々の手元に届きます。
『国産の抽出機を使って、国産原料の油を作る』
先に紹介した化学的な溶剤を用いる “抽出” の方法で油を取り出すには、それ専用の機械が必要となります。現在、国内で使用されている抽出機の多くは海外製で、日本で作られた抽出機は片手ほどしかないそうです。 そのうちの2台を製造し、現在国内で抽出機を唯一製造している会社が宮富士工業です。 後藤社長は「国産の抽出機を使って、国産原料の油を作る。毎日の食事に使われるものが全て国産でできたらすごく良いよね。」と優しく微笑みます。
国内で作られたうちの4番目・5番目の機械を製造した宮富士工業。抽出機の製造について、そして“抽出機を国内で唯一製造している会社”という点をさらに深堀していきます。
なぜ抽出機を製造する会社が少ないのか
今回、宮富士工業が製造した抽出機は “連続抽出機” と呼ばれるもので、全長12m、幅2m、高さ5.5m、重さ約23tの大型機械。通常、油を作る際は原料によって製造工程が変わるため、機械もそれぞれに適応したものが使用されるが、この連続抽出機は大豆や米ぬか、なたねなど、どんな原料をいれてもその油を作ることができるという画期的な抽出機だそう。 抽出部分には 油の通り道として約1㎝の隙間が作られていて、“金属同士は接触しないが油を濾すことができる”という絶妙な作りに設計されており、その隙間が広すぎると摩擦が少なくなり抽出が難しくなるが、隙間が狭すぎると金属が接触してしまい大量の油を使う環境下で発火の恐れが生じます。
「抽出する際に用いられるヘキサン等は揮発性(きはつせい)が高く、火に触れると爆発する危険性がある。複雑な機械の構造に加え、熱ひずみを抑えた溶接が求められるため、精巧な設計と技術がないとこの抽出機を作ることができない。高い精度と安全性の両方をクリアできる職人の技術があるからこそ、(宮富士工業は)抽出機を作ることができる」と語る後藤社長。
精巧な設計と具現化
宮富士工業だからできるものづくり
連続抽出機製造のプロジェクトリーダーである阿部さんに “製造する上で大事なことは何か” と聞いてみたところ、「順番が一番大事。何か一つでも工程を忘れてしまったら、もう戻れない。やり直しはできない。図面を読み取り、完成図をイメージして、順番を考え、モノを作っていく。平面から立体を瞬時にイメージする“感性”も重要になってくる」と教えてくれました。
後藤社長も「職人になってすぐには難しいかもしれないが、ベテランの職人の技を盗み見したり、現物と図面を見比べながら少しずつ理解して、どんどん覚えていく。ベテラン職人の背中を追いかけて、上達していくんだ。」と語ります。
宮富士工業の技術者は全10名。うち6名が “一級鉄鋼技能士” の資格を有しているそう。 一級鉄鋼技能士とは、鉄工技能検定という鉄工作業に必要な技能を認定する国家資格で、1級・2級の等級が設けられ、それぞれ上級技能者、中級技能者が通常有すべき技能の程度を位置づけられているものです。一流の技術者が揃っているからこそ、仕事の精度も高く、少ない人数でも高品質な製品を作り出すことができるのだと感じました。
今回は油と抽出機を取り上げましたが、我々の身の回りにあるものは、どれもたくさんの人が関わっており、誰かの願いや思いが技術の力で具現化され、製品として作り出されています。 日本のものづくりがどんどん発展していく中で、石巻地域のものづくりをけん引している宮富士工業の技術力に、今後も注目していきたいと思います。
宮富士工業の施工事例や業務内容をもっと知りたい方は、ぜひ会社の歴史またはホームページをご覧ください。
文:酒井志帆 写真:上野恵美 一部同社提供
株式会社宮富士工業
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